“スコッティ、転送を頼む”というのは『スタートレック』の最初の作品である『宇宙大作戦』のセリフだが、そう叫んでも、まわりからは気の毒そうな視線を浴びるだけで、なにも起きない。2013年現在、残念ながら人間がテレポーテションできる機械はまだ発明されていない。
科学の現実は、空飛ぶ車やありえそうもない技術がいっぱい出てくる架空の未来幻想とはたいてい相容れない。だからといって、ハリウッドが必ずしも荒唐無稽だったとも言えない。映画の中には、何十年も前に現在実際に開発されている技術を予言していたものがいくつもあるのだ。『マイノリティ・レポート』の中に出てくるコンピューターのタッチスクリーンや、音声やジェスチャーで操作できるキネクトのような機器は、すでに現実のものとなっている。さらにさかのぼって、映画の中で予測されていた未来技術をとりあげてみよう。
1.ウェアラブルコンピューティング=バック・トゥー・ザ・フューチャー(1989)
マクフライの家族が食卓でかけていたメガネは、かけたままネットやコンピューターにアクセスできるメガネ、グーグルグラスやオキュラスリフト(バーチャルリアリティ用ヘッドマウントディスプレイ)の前身だ。いわゆる装着して歩けるユビキタスコンピューターである。
2.ボディスキャナー=フライングハイ2/危険がいっぱい月への旅(1982)
このコメディ映画の中に出てくる、乗客の裸体がすっかりスキャンされてしまう機械にはばかばかしくて思わず笑ってしまう。しかし、あれから30年、運輸保安局が実際に空港にボディスキャナーを導入したとき、誰も笑えなかった。
3.自動運転する車=トータル・リコール(1990)
火星に植民地がある近未来。アーノルド・シュワルツネッガー演じる建設労働者のダグラス・クエイドは火星に移住したいと夢みていた。この映画の中に、自動運転できるタクシー、ジョニー・キャブが出てくる。この映画から20年以上たった現在、アメリカでは三つの州が自動運転の車を試験目的で合法化している。
4.スカイプ=2001年宇宙の旅(1968)
スタンリー・キューブリックの未来予測展望は、不気味なほど正確だ。このリストを彼のこの映画だけでいっぱいにすることができるくらいだ。ビデオ電話は今日の基準ではまだ歩き出したばかりのように思えるが、基本の考え方はスカイプのようなものなのは間違いないだろう。宇宙旅行、タブレットコンピューティング、飛行機の座席に備えつけられた個人専用テレビなどが映画の中に出てくる。
5.ホームオートメーション=エレクトリック・ドリーム(1984)
これはまだ誰もコンピューターのことなどほとんど知らなかったパソコン黎明期の人間対機械の話。コンピューターが人間に代わって家の電気をつけたり消したり、ドアをロックしたり、といったことをやってくれるのがとても恐ろしいことのように思える理由を説明してくれる。だがその後、私たちはパソコンと平和的に共存する術を学び、ホームオートメーションとはすばらしいものだということを悟ったのだ。
6.タッチインターフェイス=マイノリティ・レポート(2002)
この映画の中には今現在の現実の技術と比較できるものがたくさんある。映画は正確にジェスチャーあるいはタッチスクリーン・コンピューティングを予言していた。
7.軍用ロボット=ショート・サーキット(1986)
この映画に出てくる利口なロボット、ジョニー5は愛すべき存在だ。しかし、彼は軍用ロボットの試作品として作られた。現在、自動操縦できる無人車両の技術や、音声アシストSiri(シリ)のついた機器(iPhone)は現実にすでにできている。現代のジョニー5がもてる時代なのだ。
8.宇宙旅行=Woman In The Moon(1929)
人類は1969年まで月に降り立つことはできなかった。しかし、それより40年前、このサイレント映画の中では、月に降り立つとはこんな風かもしれないと思える光景が描かれていた。多段式のロケット、打ち上げイベントに沸くマスコミ、期待に満ちたカウントダウンなど、フリッツ・ラング監督はよく描いている。
9.手術支援ロボット=スリーパー(1973)
ウッディ・アレンは多彩な才能の持ち主だが、医者ではない。しかし、未来が垣間見える懐かしいこのコメディ映画の中では医者に扮している。あるシーンでは、しゃべるコンピューターが手術の最中に分析や提案をする。この映画が作られてからずいぶんたった今、遠隔操作でロボットを使って手術をする光景は、もう珍しいことではなくなっている。
10.スマートフォン/PDA=スタートレック(宇宙大作戦)・オリジナルシリーズ(1966)
スタートレックシリーズで、トリコーダー(携帯記録分析装置)はもうおなじみだが、現代の技術で似たようなものはあるだろうか? 答えはスマートフォンだ。今日のスマホは利用できるアプリが豊富で、トリコーダーはいわば今日の携帯装置の先駆者だったのだ。
11.デジタル看板=ブレード・ランナー(1982)
この映画の中の近未来の都市の光景には、デジタル看板がいたるところに出てくる。1980年代当時はそうでもなかったが、今日はこうした看板はごく一般的だ。
12.ウォードライビング=ウォーゲーム(1983)
たちまちのうちにインターネットは社会の主流になった。この映画は一般的なハッキング、サイバーウォー、モデムを使って電話番号を盗み取るウォーダイアリング、運転しながら無防備な無線ネットワークのアクセスポイントを探すウォードライビングなど、ネットでつながった社会の隠れた危険性へ警鐘を鳴らしている。ファイヤーウォールという言葉を使った最初の映画でもある。
13.ロボット掃除機=宇宙家族ジェットソン(1962)
まだ空飛ぶ車や錠剤ミールはできていないが、この映画の中に出てくる技術は時代を先取りしていた。ビデオチャットや日焼けベッド、テレビューアー(iPadに似た)やもちろん自動ロボット掃除機も出てくる。マンガの掃除機はルンバの前身だ。
14.家庭用遺伝子検査キット=ガタカ(1997)
現在は、この映画のように会社の面接のときに遺伝子まで調べたり、産婦人科医が生まれてくる子供が将来かかりそうな病気やその年令までを伝えたりしない。だが、自分が将来かかるかもしれない病気の遺伝子リスクを調べるために、自宅でDNA検査できるようになるかもしれない。
15.ホーム3Dプリンター=ときめきサイエンス(1985)
1985年のこの映画では、女の子にもてないふたりの若者がコンピューターとプラスチックのバービー人形で完璧な美女を作り出す。今日の3Dプリンターがあれば、あなたも家でケリー・ルブロック(この映画の美女)を作ることができる。レプリカにすぎないが、あと28年たったらどんなことができるようになるかわからない。
16.Siri(音声アシスト)=2001年宇宙の旅(1968)
この映画の中の“申し訳ありませんが、デイヴ、それはできません”は、感情を持ち始めたHAL9000が反乱を起こす場面の有名なセリフ。Siriが搭載されているiPhoneを持っていれば、HALと言葉を交わすように会話ができる。願わくは、アップルのこのデバイスがHALほど邪悪でないといい。
via:16 Movies That Predicted Technology Right・原文翻訳:konohazuku
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コメント
1. 匿名処理班炊事係
このリストの中にドラえもんが入る日はいつだろう?
2. 匿名処理班
俺が既に予測していた
3. 匿名処理班
ミクロの決死圏もある意味ナノマシーンによる治療を示唆していたとも言える。2001年はキューブリックよりアーサー・C・クラークの力量が大きくないかな。
判断するコンピューターだとI ROBOTやエヴァのマギシステムとかか。
4. 匿名処理班
今世に出てるものって大体30年前には概念があったんじゃない?
最近話題になった量子テレポートだって30年後には相当普及してるだろうに
5. 空缶
「2001年」は、大企業がかんがえちうな先端テクノロジーを披露し合った
ショールームでもあるからな...
6. 匿名処理班
人類の進歩とか宇宙のこととか考え出したら夜寝れなくなるよ
7. 匿名処理班
映画が公開された時すでに原型ができていたようなものは除外するべきなんじゃないかな?
8. 匿名処理班
これ、SF小説で同じように的中したのを探し始めたら、きりが無いだろうな
1863年時点で執筆されたSF小説で、既にファックスだとか海底ケーブルによる大陸間有線通信なんかは予測されてるし
9. 匿名処理班
ジョニー5とかいうロボット、記憶に残ってたけど何てタイトルの映画だったかずっと思い出せなかった。こんなところで知ることができるとは…
感謝
10. 匿名処理班
割と出来そうで出来ないのがフライングスケートボードだよなぁ。
11. 匿名処理班
銀幕の中に描かれる「あったらいいな」の世界が現実化するのは楽しいね
同じSFでも、華氏451の様な未来にならないことを願うよ
12. 匿名処理班
「スコッティ転送を頼む」って
スコッティは日本語版だとチャーリーじゃなかったかな?
13. 匿名処理班
フライングハイで
自動操縦をフェラで再起動させる未来は来なかった件
14. 匿名処理班
※8
海底ケーブルはその時点でもうあったよ
通信の進歩ってめちゃくちゃ早かったっぽい
15. 匿名処理班
未来を予測していた!風に言われているアニメや漫画、映画ってさ
実際に研究して商品にする人と同じ人間なんだもん、
つまるところ発想の限界に達すると、みんな同じ事を考えるという事なのかね
16. 匿名処理班
スマートフォンはウェアラブルコンピューターと言ってもいい
17. 匿名処理班
映画の時点で一般普及してなくてもすでにあった技術や研究中のものもあるからなあ
18. 匿名処理班
『スコッティ、転送を頼む』
『了解!ネピア』
『ちょっと待って!』
『何だい?クリネックス』
19. 匿名処理班
未来を予測していた、というよりも、その夢を実現させた、と言う方が正しいとは思うけどね
20. 匿名処理班
転送は、500年後でもムリだろうな。
21. 匿名処理班
「こんなことあったらいいな」というより ちょっとズレて「いくら未来だって言ってもこんなことやるか?w」の実現の方のまとめが見たい
BTF2でグリフが「チキン!」と言い放ったあとに手下がウェラブルサンプラー(?)で「コケコッコ」と音声を流すが、公開当時の感覚で言うと「そんなもん流行るか?w」「そんなもん着るなw」だった
でも今ならスマホで誰でも即実現できる 腕時計型が普及したらもう半歩だ100〜200円のガチャガチャでマリオ音やなんかも売られてる
マイノリティリポートでの「アニメつきのシリアル」も電子製品と電力のムダに思えるが
漏れ電波で動くデバイスも作られ始めたし ムダとはいえないほど低コストになるのかな
22. 匿名処理班
HALは悪くないんだ!
変な司令を出した地上の奴らが悪いんだ!!
23. 匿名処理班
空飛ぶ車は何年後に実現できるのかな?
その頃には地上も空中も大渋滞だなww
24. 匿名処理班
スタンリー・キューブリックじゃないだろ
アーサー・C・クラークだろ
25. 匿名処理班
でも「2001年宇宙の旅」もパンナムの倒産までは予測できなかったようだな
26. 匿名処理班
自動運転車の開発がアメリカでは進んでるのか。
日本で全然開発されないのは運転する楽しみを押し出してるせい?
アメリカにおいてかれないように日本も開発を開始してほしい。
27. 匿名処理班
>>20
現代の技術概念で転送を実現しようとすると
転送元に転送希望者が残ったまま転送先に希望者が複写されてしまうって話をDiscoveryでしてた。
「さて、どちらが本物?」、「転送の度に転送元の個体を処分しましょう」
なんて感じのブラックユーモア。
28. 空缶
「月世界の女」制作準備の段階で、
ロケットの父ことゴダードが監督のフリッツ・ラングに
「月面ロケしたいんだけど出来る?」と相談され
安請け合いした揚げ句トンズラしたという話を聞いたのだが
マジですか??
29. 匿名処理班
マイノリティーリポートが予測したんじゃない。
そういうのを研究してたUIの研究者がそれっぽく見えるようにこの映画の技術指導をした。
逆。
30. 匿名処理班
ドラえもんにお手紙電話と言う道具があるんだが
FAXの原型?
31. 匿名処理班
マイノリティレポートのアレは本当にかっこいい
あれにもっと近づいて欲しい
32. 匿名処理班
映画じゃないけどハインラインの「夏への扉」でCADとかメイドロボが描かれてたね
33. 匿名処理班
たまに現実がフィクションを追い抜くことがあるから心臓に悪いわ
34. 匿名処理班
鉄の塊が空をとぶわけね―だろと言われて100年でマッハで跳ぶ飛行機できたしなぁ
転送だっていずれできると信じてるよ。
35. 匿名処理班
俺が一番叶えて欲しいのは、高度な人工頭脳を備え、自動運転だけじゃなく、対話や相棒の様に振る舞ってくれる自動車だな。
36. 匿名処理班
カーナビ=ナイトライダーも入れてあげてくれ
37. 匿名処理班
スタートレックだとPADDの方が身近かも
ja.memory-alpha.org/wiki/PADD
38. 匿名処理班
*32
政府が出す補助金のためだけに工場のラインを動かして製品は廃棄 雇用は維持ってけっこういい線いってる予想
39. 匿名処理班
HALが邪悪だとか言うのは自動車が邪悪だと言うのと一緒
人類の未熟をテクノロジーに転嫁するのは良くないな
40. 匿名処理班
これらの映画が素晴らしいのはもちろんだけど、既に多くの人が描いていたアイディアや未来像を見事に映像化したから凄いんであって、これらの映画が初めて予言したってことではないよね。どれも他に元ネタがあるアイディアの素晴らしい映像化だとは思うけど
41. 匿名処理班
フッフッフ。
90年代後半、インターネットやってるヤツを超オタク認定してたオレ・・・
42. 匿名処理班
星新一がインターネットを予測していたね。
43. 匿名処理班
※33
手のひらサイズの携帯電話がいい例だよな
鉄腕アトムでさえ黒電話だ
44. 匿名処理班
HALは悪くないんだからね!
薄汚れた人間の思考が純粋な
あ、ガイシュツだった‥
45. 匿名処理班
携帯電話はどんどん小さくなっていくと思ってたのに、スマホの登場で小さすぎると画面が見にくいってことで再び大きくなるなんて予想しなかったわw